森のアトリエと、精霊たちの御用聞き#2

森のアトリエと、精霊たちの御用聞き

 「パチパチ、パチッ」 アトリエの窓辺から、まるで小さな焚き火が爆ぜるような、小気味いい音が聞こえてきた。 香りに誘われてやってきたのは、金色の火花を全身から散らす「火の粉の精霊」たち。彼らは私の肩のあたりをふわふわと落ち着かなげに飛び回ると、早くお茶を飲ませてとせがむように、机の上に小さな光の粒をこぼした。

「はいはい、お待たせ。どうぞ召し上がれ」

 湯気の立つティーカップをポストの横に置くと、精霊たちは満足そうにその中へ飛び込み、琥珀色の香りを全身で吸い込んでいる。機嫌が良いうちに、さっそく準備に取りかかろう。

 昨日、水辺の精霊からもらった「青色のベリー」を、使い込まれた銅製の手鍋に入れる。 火の粉の精霊がコンロの周りでくるくると踊りだすと、まるで意思を持っているかのように、鍋の底がじんわりと最適な温度で温まり始めた。

「……いい感じ。そのまま、優しくね」

 木べらでゆっくりとかき混ぜると、凍っていたベリーの果汁がじゅわっと溶け出し、台所いっぱいに「深い森の果実と、お砂糖が焦げる甘い香り」が満ちていく。 精霊の火加減は、どんな高級なオーブンよりも正確だ。強すぎず、弱すぎず。青かった果実は、熱を帯びるごとに深く、艶やかな紫のドレスを纏ったような色へと変わっていく。

 ジャムを煮詰める合間に、私は焼き上がったばかりのスコーンを棚から出した。 アトリエの朝食は、いつもその時々の精霊たちとの「共同作業」で決まる。一人暮らしのはずなのに、この家が寂しくないのは、彼らの気配がそこかしこにあるからだ。

「できた! 宝石みたいな色」

 小瓶に詰めたジャムは、窓から差し込む斜光を透かして、紫水晶のようにキラキラと輝いている。 お手伝いしてくれた火の粉の精霊たちにも、指先にちょんと乗せたジャムをお裾分け。彼らが熱心に香りを吸い込んでいる間に、私は自分用のスコーンにたっぷりと、まだ温かいジャムをのせた。

 外では、森の鳥たちが賑やかに歌い始めている。 特別な事件は何もないけれど、甘い香りと精霊たちの羽音に包まれたこの時間が、私にとっては世界で一番の贅沢。

 さて、今日はこのジャムを持って、森の奥まで散歩に行こうかな。 私のアトリエの、のんびりとした午前中が過ぎていく。

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